村八分堂書店

自分の本屋が持てないならネットで持てばいいじゃん。

鬼作家は美少年にトキメキたい!ー《ヴェニスに死す》『老作家が美少年に恋して破滅する話』

 

 

今回のお取り扱い

 

ヴェニスに死す》 作 トーマス・マン 訳 実吉捷郎 

 

 

                       

 

ズバリどんな本?

『老作家が美少年に恋して破滅する話』

 

キレイ美しいは似て非なるもの

 

キレイとは

整然としていること、節度があること、礼儀正しいこと、均整があること

 

美しいとは

眩いこと、歓びに満ちていること、輝いていること、ときめかせること

 

厳かなまでにキレイでいたい

だけど、私はときめいてしまった

 

 

 

どもども、架空仮想書店村八分堂書店』の見習いバイト

読ムマジロです(๑╹ω╹๑ )

 

さて、今回のお取り扱い扱い

 

ヴェニスに死す》 作 トーマス・マン 訳 実吉捷郎 

 

でございます。

 

主人公は名声を欲しいままにする老作家《アッシェンバッハ》

名声がすごすぎて爵位までもらっています。

 

彼の芸術のモットーは

『こらえとおせ』

 

 敬うべきへの跪拝によって作られる彼の小説は、

厳粛なまでにストイック

 

整然とし、節度があり、均整がある

 

先のキレイに属する要素を、厳かさに化けるまで貫き通した作風

 

 

そのような態度によってこそ初めて小説に

安っぽくない真正のヒューマニズムが宿る

という創作哲学をもっています

 

そんな彼がふとしたきっかけでヴェニス(水の都ヴェネチア)に

慰安旅行に訪れます

 

だがそこで出会ってしまう

絶世の美少年《タッジオ》

 

老作家の哲学は

たちまちその美しさにほだされてしまいます

 

「私の厳粛さは、彼のような圧倒的な美を捉えられていなかった!」

 

挙げ句の果てにはこの老作家、美少年タッジオの恋の虜になってしまいます。

 

「なんとか私の厳粛さと彼の美しさを繋げることは出来ないか」

 

「彼の美しさのためなら、破滅したって構わない」

 

 

 

 

 

 

 

ズバリ魅力は?

 

『ストイックに絞った彫刻のような文体』

 

男の老人が美少年に恋をする。

こんなキワドイ小説が古典と言われる文学作品にあるんですね。

 

さて、そんな作品を書いたトーマス・マンが書く文章は、

主人公の老作家のようにストイックです。

 

華美な装飾をほとんどせず、簡潔で力強い整然とした均整で勝負する。

 

その張り詰めた緊張感は、まるで完全な肉体をもつ彫刻のよう。

 

 

きらびやかでまばゆいアイドルのコンサートよりも、

荘厳で厳粛な神事をみてみたい!

 

そんな方におすすめです!

 

 

 

ズバリ読んだ感想は?

『やっぱり、美しいとキレイは別だ。』 

 

そんなこんなで始まった老作家の恋物語は、

 

『老作家が自分の創作哲学に殉じることによって少年の美を捉えた』

とも

 

『やはり老作家では少年の美を捉えることは出来なかった』

とも。

 

両方とも取れるんじゃないか?

 

というような終わり方で幕を閉じます。

 

ここで、

キレイ美しい

マジメフマジメ

という言葉に置き換えてみましょう。

 

キレイはどこまでいってもマジメ

整頓されて節度がある。

 

老作家=キレイは、やっぱりどこまでもマジメなんです。

 

そしてそのマジメさで美しいタッジオを捉えようとします。

 

感覚的で肉体的な美しさ

それは時々フマジメと思える瞬間もある

 

そんなタッジオを捉えようとした老作家は

マジメを貫いてフマジメになろうとしました

 

でもよくある話ですけど、

マジメな奴が計算してやるフマジメなんて

 

イタイタしくてお門違いなことが多いです。

 

威厳にあふれていた老作家は、

タッジオのストーカーにまで成り下がってしまいます。

 

意中のタッジオに思いは通じたか?

それは最後まで判別しかねましたが、

 

『タッジオこそ全て!そのためなら破滅しても構わない!』

という老作家の態度は、

ひょっとしたら危険なものかもしれません。

 

だって

タッジオこそ全て

と思っている老作家の思いは

超個人的なものにならざるを得ないんですもの

 

『タッジオ』の部分を『理想』に変えて、

破滅しても』の部分を『何をしても』に変えてみると

 

『理想こそ全て!そのためなら、何をしても構わない』

という恐ろしい文言が出来上がってしまいます。

 

もちろん、

『理想=不可能』を承知で、

不可能に邁進する姿は

誰かを勇気付けたり、生きる原動力になったりするから

否定すべきではありません。

 

でもその時の動機が純粋なものなのか、それとも不純なものなのか、

 

外からはジャッジしようがありません

 

理想を追い求める老作家のマジメさは、

時として恐ろしいものに変わってしまうかもです。

 

やっぱり

マジメフマジメ

キレイ美しいは、

きっぱり別物だと考えておきたい読ムマジロです(๑╹ω╹๑ )

 

今回の名シーン

『老作家が見知らぬ男とたまたま目があって、ヴェニス行きを思い立つシーン』

 

いやあ、なんかちょっと批判がましいことを書いてしまったかもしれませんが、

 

この作品の整然とした均整は本当に味わい深い素晴らしいものです。

 

まるで陶芸品の深みのある色合いをみているようでした。

本当にもうずっとみてられる。

 

さて、今回の名シーンは、

一見するとそんな『ヴェニスに死す』には

ふさわしくないシーンに見えるかもしれません

 

『知らんおっさんと目があって旅行を思い立つなんて、急展開すぎるだろ!』

 

って思っちゃう人もいると思います。

 

ですが僕は前後含めたこのシーンに

計算され尽くした運命が描写されていると思いました。

シーンの説明に移ります。

 

 

作品制作で集中力を研ぎ澄ましきった老作家は、

ふと目に入った街中の文字によって、気が散じて、安逸を覚えました。

 

ですがいつだって安逸こそ悲劇のきっかけ

次の瞬間、たまたま目があった見知らぬ男に、

これまで作品製作を通して世界の全てを見通そうとしていた作家が、

 

見られる

 

という体験をします。

 

誰かの眼差しに気づくということは、私の中にいるあなたに気がつくということ。

 

そしてその私の中のあなたは、私を未知の可能性へと引きずりこみます。

 

たとえそれが、身の破滅をもたらしたとしても・・・・・

 

動き出した運命の歯車

老人はどんな破滅を迎えるのでしょうか・・・・

 

 

破滅に幸あれ(๑╹ω╹๑ )/